食品パッケージなどに使用されているポリマーフィルムは、保存性などの機能を持たせるために、数種類のポリマーを組み合わせて使用されている製品が多くあります。このような多層フィルムの開発、品質管理、リバースエンジニアリングには、それぞれの層を構成するポリマーの成分の分析が重要であり、この分析に顕微FT-IR(顕微赤外分光光度計)が広く用いられています。
顕微FTIRでは、波長により変化しますが、一般的に数μm~10 μm程度の空間分解能で分析することが可能です。この数値は多層フィルムの厚みと同程度以上であるため、顕微FTIRで多層フィルムの詳細な分析を行う場合、多層フィルムを断面方向に薄片化したサンプルを延伸して測定を行うか、または透過法よりも高空間分解能である顕微ATR法を用いる必要があります。ここでは、当社のThermo Scientific™ Nicolet™ RaptIR赤外顕微鏡の透過法により多層フィルムの分析を行った例を紹介します。
多層フィルムの前処理
前述したように、多層フィルムを顕微赤外透過法で測定するには、フィルムを断面方向に薄片化し、延伸する必要があります。図1にロータリーミクロトームで薄片化した多層フィルムの顕微鏡観察画像を示します。
図1:ロータリーミクロトームで薄片化した多層フィルムの顕微鏡観察画像
(※図の拡大は、ページ下部の画像をクリック下さい)
薄片化したフィルムを延伸する理由として、1つ目はフィルムの厚みにより赤外吸収が飽和しないようにするためです。ミクロトームで薄片化しただけの状態ではサンプルが厚すぎる場合があり、赤外吸収が飽和すると成分の定性が明確に行えない可能性があります。2つ目の理由は、サンプルを延伸することで、フィルムの層の厚みが顕微FTIRの空間分解能よりも十分に広くなり、各成分のスペクトルを取得しやすくなるためです。
薄片を延伸する時、ダイヤモンドコンプレッションセル、またはKBr板と油圧プレスを使用します。ダイヤモンドコンプレッションセルを用いると下記のような利点があります。
・実体顕微鏡で観察しながら操作できる
・延伸の仕方次第で各層の成分を分離することができる
・厚みの調整ができる
一方で、KBr板を使用すると下記のような異なる利点があります。
・多層フィルムの並びが崩れない
・操作が容易
・干渉縞(フリンジ)が出ない
ここではKBr板を用いて延伸したサンプルを測定した例を紹介します。図2に、図1とは異なる食品包装フィルムをロータリーミクロトームで薄片化し、KBr板で延伸したものを透過観察光に偏光をかけた状態で観察した画像を示します。このフィルムは本来65 μm程度の厚みでしたが、延伸によって120 μm程度にまで広がっています。また、KBrとフィルムは屈折率が近いため、通常の顕微鏡観察では見えにくくなる可能性が有りますが、偏光観察を行うことで、フィルム中央の接着層を含むサンプル各層が明確に観察できています。
図2:延伸した多層フィルム薄片の顕微透過偏光観察画像
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多層フィルムの顕微赤外透過マッピング測定と解析
図3に、図2に示した多層フィルム薄片の透過マッピング測定から得られたデータについて多変量カーブ分解(MCR法)を行い、分離された2成分の分布イメージを示します。また、図4にはマッピングデータのMCR法により分離された2つの成分スペクトルを示します。本来の多層フィルムの接着層は5 μm未満でしたが、延伸することにより接着層が10 μm程度まで広がり、接着層のエステル系ポリウレタンの成分スペクトルと分布イメージが明確に得られています。また、図3の多層フィルムに使用されているPPの分布イメージの赤色の濃さが左右で異なっており、使用されているPPが異なるPPであることを示唆しています(CPP、OPP)。
図3:多層フィルム薄片の透過マッピングデータのMCR法により得らえた2成分の分布赤外イメージ(赤:成分1-PP、緑:成分2-接着層)
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図4:多層フィルム薄片の透過マッピングデータのMCR法により得らえた2つの成分の赤外スペクトル(赤:成分1-PP、緑:成分2-接着層)
(※図の拡大は、ページ下部の画像をクリック下さい)
まとめ
今回、多層フィルムの分析方法として、良好な結果が得られる顕微透過マッピングを紹介しました。また当社のNicolet RaptIR赤外顕微鏡はサンプルの偏光観察が可能で、マッピングデータの解析に通常のピーク高さや面積と合わせてMCRも容易に使用することができる顕微FTIRです。空間分解能にも優れているため、多層フィルムの分析に活用していただけます。
リサーチグレード「Nicolet RaptIR赤外顕微鏡」についてコチラをご参照ください
※以下画像をクリックすると文章中の図を拡大表示できます。
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