食品や飲料の品質管理、異物分析を代表とするクレーム品対応にFT-IR(赤外分光分析装置)が広く利用されています。FT-IRを用いた分析例として、異物の同定、材料の定性・定量分析、組成の変化の解析などがあります。FT-IRはサンプリングの簡便なダイヤモンドATRアクセサリーを用い、赤外スペクトルライブラリーによる検索を利用することで、異物の分析に多用されています。ここでは、市販のワインに浮遊していた結晶状の異物をFT-IRで同定した結果について、ICP発光分光分析装置(ICP-OES)によるワイン中の無機元素のスクリーニング結果と併せて紹介します。
ワイン中の白色析出物
市販のリースリングワイン(ドイツ・モーゼル産)を開栓すると、コルクに結晶状の白色析出物が付着していました。この白色物は、グラスに注いだワインの中にも浮遊物として認められました(図1)。ワインで見られる粉状の異物は、実際にはコルクのかけらや酒石、オリである場合が多いと言われます。特にリースリングワインでは酒石が多く見られることが知られており、これは酸味成分である酒石酸(Tartaric Acid)の金属塩で、人体には無害な物質です。
図1:ワイン中の白色析出物
FT-IR ATRを用いた分析
ワイン内とボトル栓表面に付着した結晶状白色析出物をFT-IRでATR測定しました。図2がワイン内の析出物とコルクに付着していた析出物のATRスペクトルです。スペクトルがよく似ていることから、いずれも同じ成分であることが推定できます。
ATR測定では、少量の粉状の試料を前処理なしにそのまま測定できます。ATR法はとても便利なサンプリング手法ですが、透過測定された市販のライブラリーとの比較を行う場合にはアドバンストATR補正処理を行うなどの注意が必要となります(詳細は、下記にてダウンロードできるアプリケーションノート:「アドバンストATR補正」をご参照ください)。
図2:白色析出物のFT-IR ATRスペクトル
ATR補正後のスペクトルを市販のライブラリーで検索した結果、酒石酸カルシウム(酒石)であることがわかりました。
ワイン中の無機元素の分析
ICP発光分光分析装置(ICP-OES)を用いて、ぶどう品種の異なる6種のワイン中の無機元素のスクリーニングを行い、産地別で比較しました。今回、白色析出物のみつかったのはリースリングワイン(Sample 3)です。白色析出物が酒石酸塩であったことから、このワインは酒石酸を多く含み、経時変化でカルシウム塩となって結晶が析出したと考えられます。ワインそのものに含まれるカルシウムの比率が、他の産地のワインと比較してどのような差異があるかを図3にまとめました。今回のリースリングワイン(Sample3)は他のサンプルに比べカルシウムが相対的に多く含まれることが見て取れます。
図3:ICP-OESによる市販ワイン中のカルシウム含有量のスクリーニング結果
まとめ
FT-IR(赤外分光分析装置)を用いた食品異物解析例として、ワインに含まれる白色析出物の分析を紹介しました。ダイヤモンドATRアクアクセサリー外スペクトルライブラリーを用いることで、サンプリングした食品異物をそのままの状態で迅速に同定することができます。
より詳しい情報は、下記にてダウンロードできるアプリケーションノート:「ワインの分析(5)FT-IR ATR を用いた白色析出物の分析」をご参照ください。
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