「ベテランなら大丈夫」と思っていませんか。転倒災害を招く冬の低温環境
11月に入ると、気温の低下とともに「転倒災害」のリスクが高まる季節となります。冬季は積雪や路面凍結といった環境要因に加え、低温による身体機能への影響が大きく、転倒災害が増加する傾向にあります。
特に注意が必要なのは、経験豊富なベテラン従業員の被災です。「慣れているから大丈夫」という油断と、身体機能の衰えが、事故を招くことがあります。本記事では、冬場に転倒リスクが高まるメカニズムと、厚生労働省のガイドライン等を踏まえた具体的な対策方法、対策製品をご紹介します。
冬場の高年齢労働者の転倒災害
冬場の転倒災害は、単に「床が滑りやすい」ことだけが原因ではありません。寒さや衣服による影響が、転倒事故を招く原因になることがあります。
低温による「筋肉の硬直」と自覚しにくい身体機能の衰え
職場のあんぜんサイト「加齢と転倒災害※」によると、特に高年齢労働者において、以下の3つの機能低下が現ることが分かります。
- 平衡性の低下(つまずきやすさ)
足腰の筋力の衰えにより、歩行中に無意識に「足を上げる高さ」が低くなります。これに冬靴の重みや路面の凹凸が加わることで、わずかな段差でもつまずきやすくなります。実際、バランス能力の指標である「閉眼片足立ち時間」は加齢とともに大きく低下することが実証されています。 -
出典:労働安全衛生総合研究所「産業安全研究所特別研究報告 RIIS-SRR-N0.1」 - 敏捷性の低下(回避能力の遅れ)
危険を察知してから体を動かす「全身敏捷性(ジャンプ・アップ回数)」は、50代を境に急速に低下します。このため、滑りやすい路面で体勢を崩した際、咄嗟に足を踏み出したり手をついたりといった「危険回避」が間に合わなくなります。 - 視認性の低下(見落としのリスク)
加齢により水晶体の透過率が落ちることで、暗い場所での視認性が著しく低下します。冬特有の薄暗い早朝や夕暮れ時、また明るい屋内から急に暗い屋外へ出た際の「目が慣れるまでの時間」が長くなり、凍結路面や段差の見落としを誘発します。
厚生労働省の「エイジフレンドリーガイドライン」においても、高年齢労働者は筋力、敏捷性(とっさの動き)が低下する傾向にあるとされ、特性を考慮した作業管理が必要です。
「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」パンフレット4ページ版が公開
令和6年の労働災害状況を見ると、全年齢に占める労働災害による死傷者数60歳以上の割合が過去最高の30.0%まで増加しており、年々割合は大きくなっています。詳細は、以下の記事でご紹介しています。
令和6年の労働災害状況、死亡者数は過去最少も死傷者数は4年連続で増加
また、元々の身体機能の変化に加え、冬場の「厚着による動きの制限」や「低温による硬直」が重なることで、経験があっても転倒を回避することが難しくなります。
人の感覚に頼らない「設備」と「仕組み」による対策
冬場の転倒を防ぐためには、「足元注意」などの各個人への注意喚起だけでは限界があります。ガイドラインでも推奨されている通り、設備対策(ハード面)と管理対策(ソフト面)を組み合わせることが重要です。
以下の各項目をクリックすると、冬特有のリスクに対応した具体的な対策製品を確認できます。
対策1:予防(滑らせない) ▼
路面凍結やブラックアイスバーンに対応する物理的な対策です。防滑対策や視界確保により、転倒そのものを防ぎます。
対策2:検知(転倒の早期発見) ▼
万が一転倒した際、低温環境下での放置を防ぐための対策です。センサー活用などによる早期発見の仕組みです。
冬のリスクを低減する安全製品
1. 【予防】転倒・防滑対策
防滑材の施工と耐滑靴の導入
ガイドラインでは、床や通路の滑りやすい箇所への「防滑素材」の採用や、「防滑靴」の利用が推奨されています。特に冬場は、濡れているように見えなくても凍結している箇所(ブラックアイスバーン)があるため、接触面との摩擦を高める対策が有効です。
視環境と段差の改善
冬場は日没が早く、薄暗い中での作業が増えます。通路の照度を確保し、段差を解消または目立たせることで、つまずきを回避できます。
2. 【検知】安全製品による早期発見
ウェアラブルデバイスでの見守り
ガイドラインでもIoT機器の利用が触れられていますが、冬場においては「転倒検知」機能が特に重要です。屋外で転倒し動けなくなった場合、低体温症のリスクやけが・急病の悪化が想定されるため、転倒の衝撃や長時間不動の状態を検知し、管理者に通知するシステムの導入が推奨されます。
人の意識や経験に頼らない「安全環境」を構築しましょう
冬場の転倒災害は、環境変化と身体的要因が重なって発生します。「自分は大丈夫」という油断が、労災につながります。
事業者はガイドラインを参考にしつつ、冬特有のリスク(凍結・低温)を考慮した設備投資とルール作りを進めることが求められます。同時に、働く作業者自身も日頃からストレッチ等で身体機能の維持に努めることが、事故防止につながります。
「高年齢者の労働災害対策コーナー」
関連リンク、参考文献
- このページは、以下を基に制作しています。
- ※:厚生労働省「加齢と転倒災害(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/information/tentou1501_13.html)」
- ※:労働安全衛生総合研究所「産業安全研究所特別研究報告 RIIS-SRR-N0.1(https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/doc/srr/SRR-No13-1.pdf)」
- 厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン(https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000815416.pdf)」
