サービスロボット部品委託製造ノウハウ特集

【筐体・外装】部品の製造企業の選び方

サービスロボットは多岐にわたる分野で活躍し、その性能はもちろん、外観を形作る筐体・外装部品の果たす役割は極めて重要です。他のサービスロボット部品と比較し、デザイン性、質感などがユーザーに伝わります。また、アップデートなどで変化しやすい部品でもあります。

このページでは、サービスロボットの筐体・外装部品に注目し、最適な製造企業を選定するための具体的なポイントをまとめています。

サービスロボットの「筐体・外装」部品におけるタスクに応じた設計

単に内部機構を保護するだけでなく、ロボットの機能性、安全性、そしてユーザーのロボットに対する接し方に影響を与えます。タスクに応じた設計思想が、製品価値を最大化します。

ユーザーインタラクションと安全性確保のためのデザイン

サービスロボットは、人と近接して活動する場面が多く、筐体・外装設計においては、ユーザーの安全確保が最優先事項です。例えば、子供や高齢者が触れる可能性のあるロボットでは、鋭利なエッジを排除したR形状の採用、指や物が挟まりにくい構造、万が一の衝突時にも衝撃を緩和する素材の選定や構造設計が求められます。また、カメラやセンサー、マイク、スピーカー、ディスプレイといったインタラクションデバイスを搭載する場合、外部からの衝撃や汚損から保護する設計が必要です。センサーウィンドウの素材選定では、透過性や耐擦傷性が重要となり、スピーカーグリルは音響特性を損なわない開口率やデザイン性が求められます。

これらを考慮し、ロボットのキャラクター性や親しみやすさを損なわない意匠との両立が、筐体・外装設計の腕の見せ所です。委託・製造を行う上で、以下の部分は確認しましょう。

  • 3Dデータからの試作再現性と質感表現
  • デザインコンセプトの共感度と具現化能力
  • キャラクター性を高める素材提案力
  • 色彩計画と色調管理の精度

利用シーン別に見る、筐体・外装の素材選定と加工法

サービスロボットも精密機械である以上、定期的なメンテナンスや万が一の故障時の部品交換は避けられません。筐体・外装は、これらの作業を容易に行えるよう、内部へのアクセス性を考慮しておく必要があります。しかし、アクセス性を重視するあまり、通常使用時の密閉性やデザイン性、さらには安全性が損なわれては本末転倒です。バッテリー交換、基板アクセス、ケーブルメンテナンスなど、頻度や緊急性の高い作業箇所を特定し、工具なしで開閉できるハッチ構造や、最小限のネジで取り外し可能なパネル設計などを採用します。その際、ケーブルの取り回しスペースやコネクタの向きなども考慮し、作業者がストレスなく、かつ安全に作業できるクリアランスを確保することが重要です。

デザイン性を維持しつつ、必要な箇所へ迅速かつ確実にメンテナンスできる構造は、運用コストの低減にも繋がります。

利用シーン別に見る、筐体・外装の素材選定と加工法

要件を整理した後には、素材や加工技術の選定を行います。ここでは、具体的な利用シーンを想定しながら、素材と表面処理の選定基準について解説します。

【ケース1】:医療・介護施設(屋内、衛生管理重視)

求められる特性

頻繁なアルコール使用を想定した「耐薬品性」、表面の細菌やウイルスの増殖を抑制する「抗菌・抗ウイルス性」、角のない丸みを帯びた形状の非毒性素材である必要があります。

候補となる素材と処理の例

抗菌剤練り込みABS/PC樹脂、耐薬品グレードのPP/PE、ステンレス(SUS304など)、銀イオン系や光触媒系コーティングが施された樹脂などが挙げられます。加工・処理:抗菌塗装、抗ウイルスフィルムのラミネート、フッ素系コーティング(防汚・易清掃性)、シボ加工による質感向上と傷の目立ちにくさの両立、発泡材や制振材の内貼りによる静音化などの処理を行います。

【ケース2】:商業施設・公共空間(屋内・半屋外、不特定多数の接触、意匠性)

求められる特性

不特定多数の人が触れるため、傷や摩耗に強い「傷付きにくさ・耐汚染性」、質感:施設の雰囲気やブランドイメージに調和するデザイン(意匠性)が挙げられます。

候補となる素材と処理の例

高硬度PC/PMMA(透明部品)、ABS/PCアロイ、ポリエステル系樹脂、加飾フィルム対応グレード樹脂などがあります。UVハードコート塗装(耐擦傷性)、マット塗装やシボ加工(指紋防止)、インモールド成形(IMD/IML)による多彩な加飾、金属調塗装、部分的なファブリックや木目調素材の採用、ロゴ・案内表示のためのシルク印刷やUV印刷などの処理が必要となります。

「筐体・外装」部品の委託製造企業選定のポイント

製造コストを効果的に抑制するためには、筐体・外装部品の設計段階からのVE(製品価値を向上するための価値工学)/VA(製品価値を向上するための価値分析・改善)提案が有効です。例えば、材料費の見直しでは、ロボットの用途や求められる強度、軽量性、質感、耐環境性(清掃性、薬品耐性など)を考慮しつつ、コストパフォーマンスに優れた樹脂グレードや代替素材を提案できるかが問われます。また、加工工程の簡素化としては、複雑な曲面や意匠性を損なわずに、金型構造の工夫による成形サイクルの短縮、一体成形による部品点数削減、塗装や表面処理工程の見直しなど、製造プロセス全体での効率化を提案できるかが重要です。さらに、共通部品の活用により、デザインバリエーションや将来的な機能拡張を見据え、金型費用や開発コストを抑制する提案も期待されます。ただし、最も重要なのは、コストダウンが品質の低下やロボット本来の機能を損なう事態を招かないことです。安易なコスト削減は、外装部品の耐久性低下による製品寿命の短縮、意匠性の劣化、あるいは嵌合精度の悪化による異音や故障率の増加に繋がりかねません。これは結果的にメンテナンス費用の増大や、ユーザーからの信頼失墜、ブランドイメージの低下を招く可能性があります。 デザインの再現性、表面仕上げの美観、嵌合精度、長期使用に耐える耐久性といった品質基準を堅持しつつ、コストを最適化できる深い知見とノウハウを持つ企業を選び抜くことが肝要です。

「意匠の再現性」と「機能性の両立」を実現する提案力と技術基盤

サービスロボットの筐体・外装は、デザイナーが描いたイメージを忠実に再現する「意匠性」が求められると同時に、前述のような「機能性」も担保しなければなりません。選定企業には、複雑な三次元曲面や微細なテクスチャ、特定の色味や光沢感を、設計図通りに、あるいはそれ以上に具現化できる成形技術(射出成形、真空成形、3Dプリンティングなど)や金型製作技術、そして高度な塗装・加飾技術(多色塗装、グラデーション塗装、フィルムインサート成形、レーザー加工など)が不可欠です。さらに重要なのは、デザイナーの意図を深く理解し、意匠を損なわずに量産性やコスト、機能性を考慮した「製造可能な設計」へと落とし込む提案力です。

例えば、アンダーカット処理の工夫や、センサーウィンドウの最適な材質・厚み、異種材料(金属と樹脂、透明部品と不透明部品など)の効果的な組み合わせなど、具体的な解決策を提示できる企業は頼りになります。必要に応じて、複数サプライヤーとの連携経験や、国際調達のノウハウを持つ企業であれば、部品の安定供給とコスト競争力の確保に繋がります。サービスロボットの市場投入タイミングや、改良サイクルの速さを考えると、納期遵守は事業計画の成否を左右します。企業の生産能力は十分か。また、市場の需要変動や急な設計変更、小ロットの追加生産などに対し、どれだけ柔軟な生産計画で対応できるか。材料調達の遅延や設備トラブルなど、予期せぬ事態が発生した際の具体的なリカバリー能力や、過去の対応実績を確認することも不可欠です。委託するにあたり、以下のような点を確認しましょう。

  • VE/VA提案によるコスト削減の実績。
  • 品質を維持したコスト最適化の提案力。
  • 安定した材料供給と生産体制の確保。
  • 柔軟な生産計画と納期遵守の実績。

サービスロボット特有の「開発サイクル」と「少量多品種」への対応力

サービスロボット市場は変化が速く、製品のライフサイクルが短い傾向にあります。また、初期段階では少量生産からスタートし、市場の反応を見ながら改良を重ね、徐々に生産量を増やしていくケースも少なくありません。このような状況に対応できる企業選定が重要です。具体的には、試作金型(簡易金型、アルミ型など)の製作スピードとコスト感、そして本金型へのスムーズな移行ノウハウを持っているか。デザイン変更や小規模な仕様変更、機能追加に対して、金型修正や部分的な部品変更などで柔軟かつ迅速に対応できるか。市場投入後のユーザーフィードバックに基づいた改良品の小ロット生産や、特定顧客向けのカスタマイズ外装など、少量多品種生産への対応実績や体制も確認すべきポイントです。また、筐体・外装部品は単体で完結するものではなく、内部機構や他の部品との「組み立てやすさ」が重要です。嵌合(かんごう)精度や組付け作業性を考慮した設計提案や、関連部品との調達・管理まで含めた対応ができる企業であれば、開発全体の効率化に繋がります。

委託企業選定のステップ

1

要件の明確化

まずは、ロボットの使用環境、目的、予算、納期など、筐体・外装に求める具体的な要件を洗い出し、明確にしましょう。これにより、製造企業選定の軸が定まります。

2

技術力と実績の評価

候補となる製造企業の専門性、過去の実績、品質管理体制、提案力などを総合的に評価します。特に筐体・外装に関する技術力や実績は重要です。

3

パートナーシップの構築

長期的な視点で、設計から製造、アフターサポートまで密に連携できる信頼関係を築けるパートナーを選びましょう。技術提案力も重要です。

【筐体・外装】各業界特有の検討事項

部品の委託製造企業を検討するにあたり、業界ごとに確認する事項、選定のポイントが異なります。例えば、清掃ロボットの場合、人の動きを検知する機構や、経路をマッピングする機能などが必要となります。

警備・監視ロボット

屋外環境や不測の事態に耐える堅牢性と耐候性、そして高い視認性・機能性を両立する筐体・外装設計が求められます。

警備・監視ロボットの筐体は、悪天候や衝撃に強く、搭載されたセンサーやカメラの性能を最大限に引き出す設計が不可欠です。夜間対応やデザイン性も重要視されます。

主な使用場所

  • 広大な敷地の屋外施設
  • 工場や倉庫内の監視
  • 商業施設や公共空間
  • 危険区域や立ち入り制限エリア

関連工程

  • 高耐久性素材の選定と加工
  • 精密な防塵・防水設計と組立
  • 電磁波シールド・透過性考慮設計
  • 振動・衝撃吸収構造設計
  • 特殊塗装や表面処理(耐候性、視認性)

対象となるもの

  • 本体外装カバー(樹脂、金属)
  • センサー・カメラ保護窓
  • アンテナ格納部
  • 警告灯・表示パネル

清掃ロボット

水や洗剤、汚れに強く、衛生的な環境維持に貢献する耐水・耐薬品性筐体。清掃性能とメンテナンス性も重要です。

清掃ロボットの筐体は、液体や汚れに強く、内部への浸水を防ぐ構造が不可欠です。同時に、清掃効率を高める形状や、日々のメンテナンスが容易な設計が求められます。

主な使用場所

  • オフィスビルや商業施設
  • 病院や介護施設
  • ホテルや空港
  • 工場や倉庫の床面

関連工程

  • 高耐水・耐薬品性素材の選定
  • シール・パッキンによる防水構造設計
  • 汚れが付着しにくい表面処理
  • メンテナンス性を考慮した分解・組立設計
  • ブラシ・吸引口との連携設計

対象となるもの

  • 本体外装カバー(耐水性樹脂)
  • 液体タンク・廃液タンク
  • モーター・バッテリー格納部
  • 操作パネル・充電ポートカバー

その他のサービスロボット

多様な用途に対応する柔軟な設計と、安全性や特定の法規制遵守が求められる汎用性の高い筐体・外装。カスタマイズ性も鍵となります。

介護・医療、物流、案内など、幅広いサービスロボットに対応するには、汎用性とカスタマイズ性を両立する筐体設計が重要です。安全性、法規制への対応、人間との協調性も考慮されます。

主な使用場所

  • 病院や介護施設(医療ロボット)
  • 物流倉庫や工場(搬送ロボット)
  • 商業施設や駅(案内ロボット)
  • レストランや調理場(配膳・調理ロボット)

関連工程

  • 人間との協調性を考慮した安全設計
  • 各種センサー・モジュールの組み込み設計
  • 法規制・規格(CE/ULなど)への適合
  • 衛生・清掃性や耐薬品性の確保(医療・飲食)
  • メンテナンス性・修理のしやすさの考慮

対象となるもの

  • 人と接する外装部品
  • センサー・表示器埋め込み部
  • バッテリー・充電部カバー
  • 駆動部・配線保護カバー

まとめ:最適なパートナー選びの重要性

サービスロボットの筐体・外装部品は、その性能を最大限に引き出し、ユーザーに最高の体験を提供する上で不可欠な要素です。最適な製造企業を選ぶことは、単なる部品調達に留まらず、ロボットの市場競争力、ブランドイメージ、そして長期的な運用成功に直結します。本特集で解説したように、素材選定から加工技術、品質管理、一貫体制、コスト・納期管理、そして業界特有の要件まで、多角的な視点から企業を評価し、信頼できるパートナーを見つけることが極めて重要です。適切な企業とのパートナーシップは、製品開発を加速させ、市場での成功へと導くでしょう。