サービスロボット部品委託製造ノウハウ特集

【加工方法別】委託製造企業ガイド

サービスロボットは、ファミリーレストランの配膳ロボットや、人型AIロボットの発表など、私たちの生活やビジネスに少しずつ変化をもたらしています。それらに使用される部品の性能は、適切な加工方法の選定に大きく左右されます。

このページでは、サービスロボット部品の委託製造における各加工方法の特性を深掘りし、最適な選択をサポートするポイントをまとめています。

剛性・耐久性を支える多様な精密金属加工技術

サービスロボットの基盤を支える金属部品は、その動作精度、耐久性、そして安全性を左右する大切な要素です。そのため、金属加工にはμm単位の精度と安定した加工技術が求められる場合があります。加工法を適材適所で使い分けることで、複雑な構造、高耐久性、そして軽量性を兼ね備えたロボット構造の実現が可能になります。

切削・研削・放電などの高精度加工による構造・機能部品の製作

切削加工は、CNCマシニングセンタやCNC旋盤によって、複雑形状でも安定した寸法精度と再現性を実現できます。特にロボットの関節部や駆動ユニット、各種ブラケットには、剛性と動作精度の両立が求められるため、CNCによる多軸制御加工が使用されます。これに加えて、放電加工(EDM)やワイヤーカットは、焼入れ鋼や超硬合金といった難削材を高精度に加工でき、センサー金具や微細溝加工など、切削では困難な形状にも対応可能です。研削加工は、摺動部や軸受部において、数μm以下の平面・円筒精度を出すのに適しており、モーターシャフトやブッシュなど摩擦に関わる部品に活用されます。

主な適用部品は以下です。

  • 精密ギアや駆動系部品
  • ロボットアームの関節部品、ブラケット
  • センサーやカメラの固定マウント
  • 高荷重がかかるフレーム構造部品

板金加工で実現する軽量・堅牢な外装と機能性カバー

板金加工は、軽量な外装部品や内部の仕切り、電装部品の取付パネルなど、ロボットの構造を囲う存在です。薄板の金属を使うことで、軽量性と必要十分な強度を両立しつつ、意匠性や安全性にも配慮した設計が可能です。レーザー加工やタレットパンチは、複雑な穴あけや高速打ち抜きに対応でき、通気孔、放熱スリット、ケーブル経路の形成などに活用されます。曲げ加工では複数の面を一体で成形することで部品点数を減らし、構造強度と軽量性を向上させることができます。また、溶接やリベットによる接合、表面処理(粉体塗装、アルマイト、耐指紋処理など)を組み合わせることで、EMC対策や防錆性も高められます。板金加工は量産時のコストパフォーマンスも高く、コスト制約のあるサービスロボットでも多用される工法です。

一言に精密金属加工といっても様々です。要件に合った方法を選択しましょう。

軽量化と複雑形状を可能にする高機能樹脂加工

サービスロボットにおいて、樹脂材料は単なる軽量化の手段にとどまりません。金属では難しい複雑形状の成形、設計自由度の確保、電気絶縁・耐薬品性・意匠性など、機能統合と性能の両立する素材です。近年では、エンジニアリングプラスチックやスーパーエンプラを用いた構造部品や熱可塑性エラストマーによる緩衝部品など、素材の進化が進んでいます。

外装から内部構造まで、射出成形が選ばれる理由

射出成形は、高精度・高効率で大量生産を可能にするだけでなく、内部リブやスナップフィットといった複雑構造を一体で実現できる唯一の工法です。部品点数削減と組立工程の簡略化により、コスト低減と製品信頼性の両立が可能です。

例えば、外装カバーでは単なるデザイン性だけでなく、落下衝撃の緩和や水滴の流れ制御などの機能も設計に取り込み、射出成形によってカタチにします。内部構造部品でも、バッテリーケースや基板ホルダーに、耐熱・耐薬品性や、金属部品とのインサート成形によるハイブリッド設計が用いられています。主な適用部品の例は以下です。

  • ロボットの外装カバーやパネル
  • 内部のフレームやバッテリーケース
  • センサーやディスプレイのハウジング
  • 配線ダクトやケーブル固定部品

試作・小ロット生産に強みを持つ3Dプリンティング

3Dプリンティングは、試作のスピードと設計柔軟性において他の工法を圧倒します。トポロジー最適化(コンピュータによって、材料をどのように配置すれば最適な構造を得られるか求めること。)によって得られた有機的・非対称な形状をそのまま具現化できる点が、ロボット設計との親和性があります。また、中空構造や一体化された可動部品、軽量化を目的とした構造など、従来工法では困難だった設計を可能にする製造手段でもあります。PLA(ポリ乳酸)、PA、ABSライク、TPU、PEEKなど、材料の多様化も進んでいます。試作だけではなく、販売製品の機能部品としての利用も増えています。

現在では、試作から少量実装部品(10〜100個程度)までを3Dプリンタで賄い、大量生産は射出成形へ移行するといったハイブリッド戦略もあるそうです。

ロケットすら3Dプリントで?

3Dプリンティングは「早く・安く・簡単に作れる」だけの技術ではありません。プラスチック系の素材がこれまでは一般的でしたが、近年では金属粉末を利用した3Dプリンティングも可能になっています。ある米国の宇宙開発企業は、ロケットのタンクやエンジンを、3Dプリンタで製造※1に挑戦中です。サービスロボットの製造においても、従来とは異なるアプローチによって、大幅な納期短縮と複雑構造の再現が可能になるかもしれません。

※1:https://www8.cao.go.jp/space/comittee/01-kihon/kihon-dai37/siryou3.pdf

表面処理・特殊加工で高める機能性と耐環境性

サービスロボットは屋内外の様々な環境に対応しながら、長期間安定して動作することが求められます。そのため、部品の表面には耐食性や耐摩耗性はもちろん、電気的特性や美観の維持も重要な役割を担います。表面処理や特殊加工は、部品の物理的・化学的性能を強化し、ロボットの信頼性と寿命を飛躍的に向上させるための不可欠な技術です。

耐久性向上とデザインを両立するメッキ・アルマイト

金属部品に施されるメッキやアルマイト処理は、単なる見た目の向上だけでなく、素材本来の性能を引き上げる多機能な加工技術です。アルマイト処理は特にアルミニウムに適用され、表面硬度を高めることで耐摩耗性を向上させると同時に、酸化膜による優れた耐食性を付与します。さらに多彩な着色が可能で、製品のデザイン性を高める効果も大きいです。

一方、ニッケルメッキは優れた耐食性と電気伝導性を備えており、電子部品の接点や導電部分での使用が多く見られます。クロムメッキは硬度と耐摩耗性に優れ、摺動部や摩擦の多い部品に適用されることが一般的です。これらの表面処理は、ロボットの過酷な運用環境下での性能維持を支える技術であり、信頼性の高い動作の実現に直結しています。主な適用部品は以下です。

  • 外装パネルやフレーム
  • 摺動部や可動部の表面
  • 電気接点やコネクタ部品
  • ネジ、ボルトなどの締結部品

機能性を高める多彩な表面処理技術

表面処理はメッキやアルマイトだけでなく、耐久性や特定の機能を付与するための多様な技術が存在します。たとえば、化学的に表面を改質する陽極酸化処理や、耐摩耗・耐腐食に優れたDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング、さらに環境に配慮した無電解ニッケルめっきなどが挙げられます。
DLCコーティングは硬度が非常に高く、摩擦係数も低いため、摺動部の摩耗を大幅に抑制し、動作の安定性向上に寄与します。陽極酸化処理はアルミニウム表面に厚い酸化膜を形成し、耐食性と耐摩耗性を強化するほか、表面の電気的絶縁性も付与します。

また、無電解ニッケルめっきは均一な膜厚で複雑形状の部品にも均一に処理できるため、細かい部品の保護に適しています。これらの表面処理は、サービスロボットの過酷な使用環境においても高い性能と耐久性を実現し、メンテナンス頻度の低減と長寿命化に貢献します。

各業界特有の検討事項

部品の委託製造企業を検討するにあたり、業界ごとに確認する事項、選定のポイントが異なります。例えば、清掃ロボットの場合、人の動きを検知する機構や、経路をマッピングする機能などが必要となります。

警備・監視ロボット部品製造のポイント

屋外や不特定多数の環境で稼働するため、耐環境性能と堅牢性、静音性が特に重視されます。

警備・監視ロボットの部品は、過酷な環境下での安定稼働が求められます。防塵・防水性、耐衝撃性、そして夜間・静音性が考慮された設計と加工が不可欠です。

主な使用場所

  • 工場・倉庫敷地内
  • 商業施設・オフィスビル
  • 公共施設・駅
  • 屋外の広範囲エリア

関連工程

  • 精密金属加工(筐体、ブラケット)
  • 耐候性表面処理(塗装、メッキ)
  • 防水・防塵対策(パッキン、シーリング)
  • 静音化設計(駆動系部品、防振材)
  • 光学部品・センサーモジュール組込

対象となるもの

  • 堅牢な外装カバーやフレーム
  • 高耐久性駆動系部品(ギア、モーターハウジング)
  • 監視カメラ・センサーの保護ハウジング
  • バッテリー収納部、充電コネクタ部

清掃ロボット部品製造のポイント

軽量化、メンテナンス性、静音性が重要。水や汚れに触れる部品には特別な配慮が必要です。

清掃ロボットの部品は、軽量であること、頻繁なメンテナンスが容易であること、そして静音性が求められます。水や洗剤に触れる可能性のある部品は、耐薬品性や耐水性が必要です。

主な使用場所

  • オフィス・商業施設フロア
  • ホテル・病院など衛生が重要な場所
  • 家庭内のリビングやキッチン
  • 狭い通路や障害物が多い場所

関連工程

  • 樹脂射出成形(軽量外装、水タンク)
  • 防水・防汚加工(センサー、駆動部)
  • 静音設計に配慮した部品加工
  • ブラシ・吸込口など消耗部品の製造
  • 分解・組み立てが容易な構造設計

対象となるもの

  • 軽量で耐水性のある外装カバー
  • ブラシユニット、吸込口部品
  • 水タンクや汚水タンク
  • メンテナンスが容易なバッテリー収納部

その他のサービスロボット部品製造のポイント

介護、物流、案内など、用途に応じて安全性、協調性、デザイン性、操作性などの要件が変化します。

介護、物流、案内ロボットなど、人や物とのインタラクションが多いサービスロボットは、安全性、軽量性、人との協調性、そして意匠性が重視されます。用途に応じた最適な加工が求められます。

主な使用場所

  • 病院・介護施設
  • 物流倉庫・工場
  • 店舗・駅・空港
  • 家庭内(パーソナルロボット)

関連工程

  • 複雑形状樹脂成形(意匠性部品、緩衝材)
  • フレキシブル基板実装(可動部センサー)
  • ソフトマテリアル加工(人との接触部)
  • 精密溶接・接合(軽量構造部品)
  • 静電対策・ノイズ対策部品製造

対象となるもの

  • 人に優しい触感の外装部品
  • 高精度で静音な駆動ユニット
  • 複雑な配線・ハーネス部品
  • センサーやインターフェースの組込部品

加工方法の特性を理解し、最適な委託先を選定する

金属加工では剛性と精度、樹脂加工では軽量性と設計自由度、表面処理では耐環境性や外観品質、接合技術では異素材の融合による機能最適化が可能になります。これらの加工技術は、それぞれ得意とする領域が異なるため、「どの部品に、どの加工法を、どの企業に委託するか」を明確に整理することが重要です。技術力だけでなく、試作対応力、小ロット対応、量産実績、設備の充実度なども判断基準になります。