サービスロボット部品委託製造ノウハウ特集

【演算処理ユニット・制御基板】部品の製造企業の選び方

演算処理ユニットおよび制御基板は、センサーからの情報を処理し、アクチュエータを制御し、そして時にはAIアルゴリズムを実行するなど、ロボットのあらゆる動作と機能の中核を担います。

このページでは、「演算処理ユニット・制御基板」の、設計や製造において確認したほうが良い点と、委託企業選定時に特に注視すべきポイントをまとめています。

「演算処理ユニット・制御基板」部品におけるタスクに応じた設計と選定

サービスロボットにおける演算処理ユニットと制御基板は、ロボットの「頭脳」として、センサー情報の処理、動作指令の実行、通信制御など多岐にわたる機能を司ります。これらの部品は、ロボットの性能と信頼性を決定づける中核となる部品であり、複雑な回路設計、微細な部品実装、そして厳しい環境下での安定稼働が求められます。

リアルタイム性と処理能力を両立するアーキテクチャ設計と部品選定

センサーなどの情報をリアルタイムに処理し、環境の変化に即座に対応して動作を制御する必要があります。これには、適切なマイクロプロセッサ(MPU)、マイクロコントローラ(MCU)、あるいはFPGAやGPUといった処理デバイスの選定を行います。例えば、高度な画像認識やAI処理を行う場合は高性能なMPUやGPUが、モーター制御やセンサーデータ収集といったリアルタイム性が重視されるタスクにはMCUや専用のDSPが適しています。製造企業を選定する際には、ロボットのタスク分析に基づき、必要な処理能力(演算速度、メモリ容量、バス帯域など)とリアルタイム性を満たす最適なアーキテクチャを提案できるか、また、そのアーキテクチャを実現するための主要部品(CPU、メモリ、ストレージ、各種ペリフェラルIC)の選定において、性能、消費電力、コスト、供給安定性、そして将来のEOL(生産終了)リスクまで考慮した提案ができるかが重要です。複数のプロセッサを組み合わせたヘテロジニアス構成や、RTOS(リアルタイムOS)の導入経験なども評価ポイントとなります。

具体的には、以下の点を確認してみましょう。

  • 各タスクの処理負荷、リアルタイム要求、データフローを考慮した上で、最適なプロセッサ(MPU/MCU/GPU/FPGA/DSP)の種類、コア数、動作周波数を提案できるか
  • プロセッサ間のデータ通信(共有メモリ、高速バスなど)の効率的な実装ノウハウ
  • リアルタイムOS(RTOS)の選定・導入・カスタマイズ経験
  • メモリシステム設計の最適化

[拡張性と信頼性]モジュール設計とインターフェース標準化

サービスロボットは、開発段階での機能追加や、市場投入後のバージョンアップ、さらには特定用途向けのカスタマイズなど、柔軟な拡張性が求められるケースが多くあります。そのため、演算処理ユニットや制御基板をある程度モジュール化し、標準化されたインターフェース(例:USB, Ethernet, CAN, SPI, I2C)を通じて各機能部品(センサー、アクチュエータ、ディスプレイなど)と接続する設計が重要です。これにより、開発効率の向上、部品交換の容易化、そしてシステム全体の信頼性向上が期待できます。製造企業には、このようなモジュール設計のノウハウや、各インターフェース規格に関する深い知識、そしてそれらを基板上に効率的かつノイズに強く実装する回路設計・基板レイアウト技術が求められます。また、電源回路の設計においては、各モジュールへの安定した電力供給はもちろん、ノイズ対策、過電流・過電圧保護、そしてバッテリー駆動の場合は省電力仕様といった、システム全体の信頼性向上と安定稼働させるための設計が必要です。

同様に、機器との接続距離の設計や、使用するケーブルの選定なども行う必要があります。

利用シーン・機能要求別に見る、製造上の留意点と評価ポイント

ロボットの用途や求められる機能によって、演算処理ユニットや制御基板に求められる特性や製造上の注意点は大きく変わります。以下にケース別の製造上の留意点、評価ポイントをまとめました。

機能要求1:高度AI処理・自律移動(高性能MPU/GPU搭載ボード、エッジAIコンピューター)

製造上の留意点

高性能プロセッサ(例:NVIDIA Jetsonシリーズ、Intel Core iシリーズ)の選定と、その性能を最大限に引き出すためのメモリ(LPDDR4/5など)、ストレージ(eMMC, NVMe SSD)の適切な組み合わせ。プロセッサの発熱に対する適切な放熱設計(ヒートシンク、ファン、ヒートパイプなど)。多数のセンサー(カメラ、LiDARなど)や高速通信(Gigabit Ethernet, Wi-Fi 6など)に対応するための高速インターフェースの実装と信号品質確保。AIアクセラレータ(NPU、TPUなど)の内蔵または増設オプション。

評価ポイント

ベンチマークテストによる実効処理性能(例:画像認識のフレームレート、SLAM処理速度)。高負荷連続動作時の熱安定性と、スロットリング(性能低下)の発生状況。インターフェースの豊富さと、実際のロボットシステムへの組み込みやすさ。ソフトウェア開発環境(SDK、BSP、ドライバ)の充実度とサポート体制。消費電力と、バッテリー駆動を考慮した省電力機能。

機能要求2:精密モーター制御・リアルタイムセンサー処理(MCU/DSP搭載制御基板、モーションコントローラ)

製造上の留意点

リアルタイム性に優れたMCU(例:ARM Cortex-Mシリーズ、RISC-Vベース)やDSPの選定。モータードライバー回路、エンコーダー入力回路、電流・電圧センサー回路のノイズ対策と精度確保。CAN、EtherCAT、RS-485といった産業用通信インターフェースの確実な実装。割り込み処理の応答速度や、タスクスケジューリングの最適化。安全規格(例:IEC 61508)への対応や、フェイルセーフ機能の設計。

評価ポイント

モーター制御の応答性、追従性、安定性(多軸同期制御能力など)。センサーデータのサンプリングレートと処理遅延。通信インターフェースの信頼性と、他機器との接続互換性。過酷な環境(温度、湿度、振動、ノイズ)下での動作安定性。

「演算処理ユニット・制御基板」の委託製造・調達先選定のポイント

ロボットの「脳」にあたる、処理ユニット、基板設計・製造を任せるパートナー選びは、技術力だけでなく、開発プロセス全体をサポートできる総合力が問われます。

「回路設計から基板製造・実装・検査まで」の一貫した品質保証体制と技術力

演算処理ユニットや制御基板の品質は、回路設計の妥当性、部品選定の適切さ、基板レイアウトの巧拙、そして製造・実装・検査の各工程の精度に左右されます。選定企業には、これらの工程を自社または緊密な協力体制で一貫して管理し、各段階で品質を造り込む能力が求められます。特に、高速信号伝送ラインのインピーダンスコントロール、電源プレーンとグランドプレーンの最適配置、ノイズ源と感受性回路の分離といった基板レイアウト技術や、微細部品(0402チップ、BGA/CSPなど)の精密な表面実装(SMT)技術、そしてX線検査や自動光学検査(AOI)、ファンクションテスト(FCT)といった多様な検査体制は、製品の信頼性を担保する上で不可欠です。

また、試作から量産へのスムーズな移行を支援するDFM(Design for Manufacturability)の提案力も評価ポイントとなります。委託製造先の選定にあたり、以下のような点を確認しておきましょう。

  • 安定した部品調達とサプライチェーン管理能力
  • 高度な自動実装・組立ラインの有無
  • 全工程におけるトレーサビリティ管理体制
  • 効率的かつ厳格な最終検査プロセス

「ソフトウェア・ファームウェア開発との連携」と「システムレベルでの課題解決能力」

演算処理ユニットや制御基板は、それ単体で機能するわけではなく、その上で動作するソフトウェアやファームウェアと一体となって初めてロボットの「知能」を実現します。そのため、製造企業には、ハードウェアの専門知識だけでなく、OS(Linux, RTOSなど)のポーティング、ドライバ開発、ミドルウェアの選定・統合といったソフトウェア開発に関する知見があると、まとめて開発・実装を進めることができ安心です。さらに理想的なのは、ロボットシステム全体を俯瞰し、ハードウェアとソフトウェアの境界領域で発生しがちな問題(例:性能ボトルネックの特定、タイミング問題のデバッグ、インターフェース不整合の解消)に対して、システムレベルでの解決策を提案・実行できる企業です。開発初期段階からソフトウェアチームと連携し、ハードウェアの仕様を最適化できるパートナーは、開発期間の短縮と品質向上に貢献します。

委託企業選定のステップ

1

要件の明確化

ロボットの機能、性能、環境要件、量産計画を詳細に定義し、製造パートナーに求める具体的な条件を整理します。

2

技術力と実績の評価

サービスロボット部品製造の経験、保有技術、品質管理体制を徹底的に調査し、信頼性を評価します。

3

サポート体制の確認

開発段階からの連携、トラブル対応、情報共有など、円滑なプロジェクト推進のためのサポート体制を確認します。

【演算処理ユニット・制御基板】各業界特有の検討事項

部品の委託製造企業を検討するにあたり、業界ごとに確認する事項、選定のポイントが異なります。例えば、清掃ロボットの場合、人の動きを検知する機構や、経路をマッピングする機能などが必要となります。

警備・監視ロボット

24時間稼働、複雑な環境認識、リアルタイムデータ処理が求められ、高精度なAIと通信技術が鍵です。

高い信頼性、耐環境性、セキュリティ対策が不可欠。データ処理能力と通信安定性も重視されるため、演算処理ユニットの性能が極めて重要です。

主な使用場所

  • オフィスビル
  • 商業施設
  • 工場
  • 屋外施設

関連工程

  • センサーデータ処理
  • 画像・音声認識
  • 経路計画・自律移動制御
  • リアルタイム通信プロトコル設計
  • クラウド連携

対象となるもの

  • 高性能AIプロセッサ基板
  • 堅牢な制御基板(耐環境性)
  • 広範囲無線通信モジュール
  • セキュリティチップ・暗号化回路

清掃ロボット

連続稼働、多様な床面対応、水濡れ・粉塵対策が求められ、堅牢な設計とバッテリー管理が重要です。

堅牢な設計、耐水・防塵性、効率的なバッテリー管理、および清掃ルートの最適化演算が重要です。過酷な使用環境に耐えうる制御基板が求められます。

主な使用場所

  • ホテル
  • 病院
  • 商業施設
  • オフィスフロア

関連工程

  • 環境マッピング・経路生成
  • ブラシ・吸引モーター制御
  • バッテリーマネジメントシステム(BMS)
  • 障害物回避・衝突防止
  • 水位・汚水レベル検知

対象となるもの

  • 耐水・防塵対応制御基板
  • 高効率電源回路
  • モータードライバー基板
  • 高精度センシングモジュール

その他のサービスロボット

医療、介護、物流、調理など多岐にわたり、用途に応じた柔軟な設計と拡張性、信頼性が必須です。

汎用性と特殊要件への対応力、将来的な機能拡張性、コストと性能のバランスが重要です。ヒューマンインターフェースや遠隔操作への対応も考慮されます。

主な使用場所

  • 医療・介護施設
  • 物流倉庫
  • 飲食店・小売店
  • 教育機関

関連工程

  • ヒューマンインターフェース設計
  • 遠隔操作・テレプレゼンス
  • データ収集・分析・AI連携
  • 各種アクチュエータ制御
  • ネットワーク統合

対象となるもの

  • 高性能マイコン搭載基板
  • 多機能I/Oインターフェース
  • 各種無線通信モジュール
  • AIアクセラレーターモジュール

まとめ:適切なパートナー選定で成功へ

サービスロボットの性能と信頼性を左右する演算処理ユニット・制御基板の製造は、その専門性と複雑性から、信頼できるパートナー選定が成功の鍵を握ります。本記事でご紹介した、高度な技術力、サービスロボット特有の品質基準への対応、量産化への柔軟性、そして密なコミュニケーションとサポート体制を兼ね備えた製造企業を選ぶことで、貴社のロボット開発はより一層加速し、市場での競争力を高めることができるでしょう。最適なパートナーを見つけ、共に未来のサービスロボット市場を切り拓いていきましょう。