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コラム

FT-IR とラマンを用いたマイクロプラスチックの分析

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私たちの日常生活で使用するさまざまなアイテムはプラスチックでできています。その結果、環境中そして食物連鎖の中におびただしい量のプラスチックを排出してしまっています。さらに悪いことに、その分解には非常に長い時間を必要とします。

 

当社のFT-IRそしてラマン装置は、さまざまなサンプル中(飲料、海水、工場排水など)のマイクロプラスチックの同定、定性分析に役立てていただけます。簡単に操作・解析ができるので、分光法の専門家でなくとも明確な答えを得ることができます。

 

マイクロプラスチックとは?

砂浜、衣服、飲料、魚介、ビール、大気、蜂蜜など、すべてに共通していることは、マイクロプラスチックを含んでいる可能性があることです。

 

マイクロプラスチックは 5 mmよりも小さなサイズ [参照1] の粒子で、環境中にさまざまに交絡することで食物連鎖の中にも侵入し、小さい粒子は浄化システムをくぐり抜けてしまう点において喫緊の課題となっています。  マイクロプラスチックは小さなプラスチック繊維やさまざまなプラスチック製品が壊れ、粒子化したものの総称です。それらの発生源 [参照2] として以下のようなものが挙げられます。


- 衣服
- 塗膜
- タイヤが摩耗したもの
- プラスチックごみ ( ビニール袋、ペットボトル、ストローなど)
- マイクロビーズを含んだ洗顔料など

 

ある調査によると、世界中の水道水の 83%において 100 μm 以下 [参照3] のマイクロプラスチックファイバーの混入が認められました。それらのマイクロプラスチックは、人類の日常生活(洗濯、水遊び、洗顔、あるいは単に路上を歩いているだけの行為など)から環境中に排出されたものです。それらのマイクロプラスチックは淡水湖、河川、浄化施設を通じて水道水の中に含まれてしまいます。マイクロプラスチックの発生は海洋、湖沼、河川を汚染するだけではなく、その環境で生きる生命体に影響を与えます。

 

図 1 はヴェネツィアの潟湖にある、ペッレストリーナのビーチで採取された海水サンプルの分析結果です。B 枠で示される三つの粒子のサイズは 5 から 10 μm 程度です。黄色の粒子はポリプロピレン、灰色の粒子はレーザープリンター用 PV23 ヘキスト顔料と同定されました。

 

(図 1:海水サンプルの分析結果)

 

近隣のコンビニエンスストアでペットボトル入りの飲料を購入するときに、飲料中に健康を害するかもしれない成分が混入している可能性を考えることはないでしょう。しかしながら、驚くことにペットボトル入りの飲料もマイクロプラスチックの混入の可能性に関して、例外ではありません。実際、水道水よりもマイクロプラスチックの混入確率が高いとの研究結果もあります。ニューヨーク州立大学フレドニア校で行われた研究では、試験対象のボトル入り飲料水の93%はマイクロプラスチック汚染の兆候を示しました [参照4]。この事実は世界保健機関(WHO)を動かし、マイクロプラスチックに関するすべての研究結果が評価され、飲食を通じたマイクロプラスチックの摂取が人間の生涯にわたる健康に影響を及ぼすか否かについて検証されています。残念ながらマイクロプラスチックは水道水の浄化プロセスにおいて判別し、取り除くことができません。よって水道水、または飲料のボトリングプロセスから生じたマイクロプラスチックを人間が摂取する恐れがあります。このことは飲料メーカーにとって潜在的な責任リスクとなり、飲料メーカーはいかに製品中のマイクロプラスチックを測定するかに関して、最善の方法を模索しています。 

 

健康への影響は未確認

現状、マイクロプラスチックが人間の健康に悪影響があるかは不明です。それはこの問題の発見がつい最近だったからです。ゆえに私たちはマイクロプラスチックが人間に対しての生物学的、毒性的な問題があるのかどうかを解明する必要があるのと同時に、マイクロプラスチックの構造の理解とその発生防止に関する研究を進めなくてはなりません。

 

 

プラスチックごみは環境中で細かくなり、より小さな破片となり、繊維のような状態になります。その繊維状の物質は水中の毒性化合物(殺虫剤や海洋事故からの毒性流出物など)を吸収することがあります。このようにマイクロプラスチックは食物連鎖に取り込まれ、毒性物質はキャリアを変えながら、最終的に私たちの食卓に上る可能性があります[参照5]

マイクロプラスチックを通じた魚介から人間への毒性物質の転移が、人体にどれだけの健康被害をもたらすのかに関してはまだ未解明の段階ですが、毒性物質の魚や小さな生命体に与える健康被害については研究結果が出ています。マイクロプラスチックに吸着した毒性物質は魚の体内に蓄積され、それは 2 通りの問題:①毒性物質が細胞に直接ダメージを与える、②化学物質の生物性濃縮により肝毒性障害を引き起こす、ということが判明しています[参照2, 7]

 

マイクロプラスチックの分析における問題点

微粒子を区別するためには、現状では実体顕微鏡を用いてマイクロプラスチックを他の物質と見分けるという方法があります [参照6]。しかし残念ながら、このビジュアル式判別方法では 1 mm 以下の小さなマイクロプラスチックの判別が非常に難しく、サンプル取扱いに際しての人的ミス、そしてそれによるコンタミネーションの可能性が否定できません。この非常に煩雑で時間のかかる方法は、差し迫る課題への対策とは言い難いのが実情です。

米国環境保護局(EPA)はマイクロプラスチック・エキスパート・ワークショップを 2017 年 6 月に開催しました。それは人類とエコシステムに影響を与えかねないマイクロプラスチックのリスクとインパクトを理解し、必要な情報を特定し対策の優先順位を決めるためでした [参照6]。マイクロプラスチックのリスクを理解するための必要事項を特定するにあたり、専門家達はサンプル採集、抽出、ミクロンスケール(粒子サイズ:1 µm ~ 1 mm) のポリマーの定量と定性に関してのメソッドにスタンダードが必要であることに合意しました。それは適切な QA/QC(品質保証・品質管理)メソッドのように再現性が高く、わかりやすく、正確で高精度である必要があります。人類そして環境の健康状態を客観的に評価するために不可欠な情報として、サンプル中のマイクロプラスチックの形状、ポリマーの種類、大きさ、化学組成、粒子の数 といった項目を明確にする必要があります。専門家グループは従来のビジュアル式判別方法の補完として分析メソッドを使用すること、そして高い再現性と人為ミスを最小化するために、自動化を備えた分析装置を使用することを推奨しています[参照6]

 

分析ソリューション

顕微ラマンと赤外顕微鏡は環境、工業、水道水、消費財などに含まれる、広範なマイクロプラスチックのサイズ(直径 1 ~ 5000 µm)に対応し、明確な定性分析を可能にします。  この分析手法は分子と光の相互作用による分子振動からスペクトル(吸光または散乱光のピークパターン -図 2)を取得し、ターゲット粒子から分子固有の情報(=「分子の指紋」)を得ることでその成分の特定を可能とします。

 

(図 2:マイクロプラスチックの標準ラマンスペクトルの一例 ※上からPE、PE-TiO2、PS-DVB)

 

10μm 以上の粒子サイズには Thermo Scientific Nicolet iN10 MX 赤外顕微鏡-図 3)が最適なソリューションとなります。1 μm 未満の粒子に対しては、空間分解能 0.5 μm を誇る Thermo Scientific DXR2xi イメージング顕微ラマン-図 4)が最適なソリューションとなります。さまざまなポリマーやプラスチックのスペクトルがライブラリに準備されており、分析対象の粒子組成を速やかに評価することが可能です。これらの装置はフィルター上の大きなエリアを迅速にイメージングすることができるので、異なる成分から成る粒子群を迅速かつ確実に定性分析します。

 

    

(図 3: Thermo Scientific Nicolet iN10 MX 赤外顕微鏡)

 

 

   

(図 4: Thermo Scientific DXR2xi イメージング顕微ラマン)

 

 

参照

  1. https://marinedebris.noaa.gov/sites/default/files/publications-files/TM_NOS-ORR_30.pdf
  2. https://orbmedia.org/stories/Invisibles_plastics
  3. https://www.theguardian.com/environment/2017/sep/06/plastic-fibres-found-tap-water-around-world-study-reveals
  4. https://orbmedia.org/stories/plus-plastic/
  5. https://www.theguardian.com/lifeandstyle/2017/feb/14/sea-to-plate-plastic-got-into-fish
  6. https://www.epa.gov/trash-free-waters/microplastics-expert-workshop-report
  7. https://www.nature.com/articles/srep03263

 

FTIR とラマンで定性ができる典型的なプラスチック

名称略語密度(g/cm3
発泡スチロール EPS 0.02
ポリプロピレン PP 0.89
低密度ポリエチレン LDPE 0.96
高密度ポリエチレン HDPE 0.96
ABS 樹脂 ABS 1.05
ポリスチレン PS 1.06
ポリアミド(ナイロン) PA 1.14
ポリメタクリル酸メチル(アクリル樹脂) PMMA 1.18
ポリカーボネート PC 1.2
セルロースアセテート CA 1.3
ポリ塩化ビニール PVC 1.39
ポリエチレンテレフタレート PET 1.39
ポリテトラフルオロエチレン PTFE 2.2

 

 

マイクロプラスチックの分析 ブックレット - 無償配布

当社はマイクロプラスチック分析に関するノウハウを凝縮した、「マイクロプラスチックの分析ブックレット」を作成いたしました。サンプリングから装置使用方法、そして解析におけるノウハウやテクニックを余すところなく紹介しています。

 

当社では、これからFT-IR・ラマン分光装置を用いてマイクロプラスチックの分析を始めようとされている方・または装置を導入したが上手く分析できない方に当ブックレットを無償配布しております。当ブックレットをご希望の方は、以下の「このページに関するお問い合わせ」に必要事項をご記入の上、「お問い合わせ内容」欄に、マイクロプラスチックの分析 ブックレット希望” と明記ください。後日弊社担当者より連絡を差し上げます。

 

以下、当ブックレットの目次です。

    

 

 

 

 

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