切断工具のベンチマーキングにキスラーの測定技術を採用

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 / 2021年09月30日 / 

ツールホルダで客観的な比較試験を行うために、BIG KAISERは、動力計、研究用チャージアンプ、解析ソフトウェアで構成したキスラーの測定チェーンを使用して切削抵抗測定を行っています。そこで得られた結果は、進行中の製品開発を支えるだけでなく、セールスおよびカスタマーサポートチームにさらなる刺激をもらたしています。

 

BIG KAISERは、高性能・高精度の工具を提供することで世界的に広く名の知られたスイスの会社です。1948年創業のBig Kaiser Precision Tooling Ltd.は現在、穴あけ用工具、フライス加工用工具、旋削加工用ツール、ツールホルダを含む製品ポートフォリオを提供しており、それらの製品は金属加工業界において高精度と高い安定性の代名詞となっています。スイス、ドイツおよび米国に約170人の従業員を擁し、最高水準を満たす製品およびシステムを製造しています。

それらは時計製造業、自動車製造、飛行機建造などのハイテク分野や医療技術分野で用いられています。約120人の熟練スタッフが従事する生産施設は、チューリッヒ近郊のリュームラングにあります。BIG KAISERはまた、大阪に本社を置き、世界的に事業展開するBIG DAISHOWAグループの一員となっています。なお、同グループは世界中に約900人の従業員を擁しています。

 

性能比較をソフトウェア支援で評価

マルコ・シラーグナ(Marco Siragna)氏は、この2年間にわたりBIG KAISERで製品マネジメントの責任者を務めており、2人の同僚と共に20,000を超える各種品目のポートフォリオについて責任を負っています。これに先立ち、彼はBIG KAISERにおいて、5年にわたって専用工具の開発に熱心に取り組んだ経験があり、この業界にはどんな課題があるのかをよく理解しています。「お客様に最善のアドバイス、そして最適な装備を提供するためには、工具を客観的に評価・比較できることが重要になります。私たちは、数年にわたって社内で一連の測定を実施しました。というのも、メーカーの情報は必ずしも真実そのものとは限らないからです。私たちはキスラーとの連携を通じて、結果と追加の測定値を比較する機会を得ることができました。」

<pベンチマーキング(競合比較)プロセスの最初の段階において、BIG KAISERのエンジニア陣はツールホルダに、より具体的に言うとコレットチャック、ミーリングチャックおよびハイドロチャックの製品カテゴリーに焦点を合わせました。そのために使用したキスラーの測定技術は、多成分動力計(型式9119AA)、LabAmp研究用チャージアンプとDynoware解析ソフトウェアでした。

 

「私たちが外部の測定技術を使って作業を行ったのは、これが初めてのことでした。扱いやすさと迅速な実装により、1~2日以内にベンチマーキングを開始することができました。また、開発エンジニアのデニス・ルオフ(Denis Ruoff)の精力的なサポートも大きな力となりました」 BIG KAISERの製品マネジメント責任者のマルコ・シラーグナ(Marco Siragna)

 

正確かつ効率的な測定・比較

アンバランス、振れ精度などの主要なパラメータは、各ツールホルダについて測定・比較を行ったほか、チップの品質、騒音の排出などの機械加工時に直面する特性も併せてチェックしました。「4つのカテゴリーのうち3つで、私たちの製品がベストであるという結果が出ました。つまり、私たちの仕事が非常にポジティブに認められたことになります。従来の比較方法を新しい測定値と比較することができ、各製品が特定の要件をどれぐらい満たしているのか特定することもできました」とシラーグナ氏は述べています。

 

すべての試験でカーバイド製の穴あけ用工具は、焼入れ・焼戻し鋼(C45E)に対して使用されました。12mmの加工深さで、横方向のステップオーバは、開始時の0.5mmから6mmに徐々に増大しました。試験から、BIG KAISERのツールホルダ、特にコレットチャックとハイドロチャックのカテゴリーではステップオーバの段階的な増大に最も耐えることがわかりました。振動はより多く発生するものの、それらは一定で、許容範囲内を保っています。その例を図2に示します。

 

「キスラーのソフトウェアはかなり使いやすいです。私たちの目的のために必要となる以上のことをしてくれます」とシラーグナ氏は述べています。「結果は私たちの期待を大きく上回っただけでなく、それらを効率的に取得することができました。ここで真の課題となったのは、測定結果を正しく分類することでした。非常に多くの色分けされた曲線からどうやって正確な知見を引き出すかが問題となったのですが、キスラーのラインハルト・ボスハルト(Reinhard Bosshard)さんが私たちをしっかりサポートをしてくれました。彼はDynowareでの自分の経験を生かして私たちを導き、アシストしてくれました。」

 

切削工具の性能を評価する方法として切削抵抗測定を行うことに、どんなメリットがあるのでしょうか。切削抵抗は、工具の平均寿命に直接関係する、工具と材料の数多くの組合せを表します。そして、力の特性曲線と傾向を評価することで、工具の寿命試験により、工具への応力の原因となる摩耗メカニズムについての結論を引き出すことができ、これは適切な改善策を導き出すための基礎となります。安定性は、切削抵抗にも直接関係しています。 目に見える影響が生じる前に、力のダイナミクスが安定性に与える影響を推測することができるからです。また、プロセスに対する興味深い知見を得ることもできます。例えば切削抵抗測定では、切削点、つまり工具が材料を貫通するときのポイントが大きな力のたわみを生じさせるかどうかが一目でわかります。

 

測定データが販売を後押しし、開発の最適化にもつながる

BIG KAISERでは、キスラーの測定技術を用いた比較性能試験の結果が開発作業にも活かされることがあります。「競合メーカーと比較して私たちの長所をより正確に把握し、弱点に対する改善策を考えることができるからです。これによってより正確に的を絞って開発作業を行うことが可能になります」とシラグーナ氏は話します。「さらに、セールスチームが活用できるような論拠も得られます。私たちが可能または不可能と捉えていることをお客様に正確に伝えることができますし、例えば長期的により良い結果を達成し、コストを削減するために割高のツールに投資するようにお客様にアドバイスすることもできます。」

 

どのようなトレンドが業界を方向づけるのかという問いについて、シラグーナ氏は展望をこう述べています。「一般に、ますます多くのセンサ技術がツールに直接組み込まれていくでしょう。状態監視と同様に、生産環境においてすべてのシステムとコンポーネントをネットワーク化するという非常に明確なトレンドがあります。つまり、お客様はツールデータをいっそう求めるようになっていくでしょう。そして、私たちはツールデータを様々な形式で提供することができます。インダストリー4.0は特に重要な要素で、BIG KAISERの技術革新を強く促す要素でもあります。ただ、私たちは何も考えずにあらゆるデジタル化のトレンドに単純に飛びつくことはありません。逆に、直接測定システム、無線コントロールや監視システムなど、現在様々なことが起こっている分野で何をどのように実施できるのかをよく検討し、それがお客様にどのような付加価値をもたらすのかを追求しています。」

@engineer